第142章 小泉さんには想い人がいる

南雲玲奈はぼんやりとした意識の底で、かすかに声を聞いた気がして、思わず顔を上げた。

そのときになってようやく、目の前に人影が増えていることに気づく。

見慣れた端正な横顔が、息が触れるほど近い。

夜の底みたいに深い瞳は、驚くほどやわらかい光を湛えていて――先ほどまで感じていた冷たさや距離感とは、まるで別人だった。

相手は相変わらず、仕立てのいいスーツ姿だ。近くで見るほど、品の良さが際立つ。圧のある気配も変わらず漂っていて、思わず背筋が伸びるはずなのに。

今はなぜか、あの「手の届かない冷たい月」みたいな遠さが薄れていた。

体も心もどこか苦しく、頭の中はどろりとした霧のまま。

玲奈は...

ログインして続きを読む